論点特集
改正行政書士法の解説とこれからの行政書士業務(4)
戸口 勤
補追として、これからの行政書士の業務と責務について論及する。
具体的な提出手続代理業務を進展させる為に
 提出手続代理権の獲得によって、行政庁の対応がどのように変わって行くであろうか。今回の改正の目的は「行政書士業務の明確化」にある。その事を踏まえると、殆ど行政手続そのものは変わりが無く従来通りのようにも思えが、「代行」から「代理」へ文言が改正され、まったく同じ取り扱いと言う事は法的にあり得ない。法律は、解釈に依ってかなり適用、運用が変わるため各行政庁の適正な改正行政書士法の解釈を期待する。具体的な手続きに於いては、誤字、脱字等の軽微な訂正は行政書士の職印で可とされなければならない。また、許可書等の受領する事が出来ると解する。然じて、許可書の交付が郵送制度による場合は、行政書士も受領し得ない。何故ならば、本人に受領権限が無い行為を行政書士に委任する事が出来ないからである。
 何れにしても、行政書士ひとり一人の意識を行政庁に対する対応が行政庁を動かし、結果的に、国民の為の理想の提出手続制度へと確立されて行くのである。
急がれる行政書士事務所法人化への法改正
 おりしも、先般の通常国会で弁護士、弁理士、税理士事務所の法人化の法案が成立した。司法書士、社会保険労務士、不動産鑑定士の各士業会も事務所法人化の法改正に向けて準備が進められている。代理権の獲得が、士業界で最後に成ってしまった事を教訓として、行政書士事務所法人化の為の法改正を急がねばならない。
 士業事務所法人化の要請は、@事務所経営の規模拡大による安定化、近代化とA多数の行政書士による継続性、透明性のある事務所経営、事件処理並びにB法律、税務、行政手続等の複雑専門化等に対応する為であり、C国民ニーズの多様化に対応し、引いては国民の利便性こそがその目的である。国際化、多様化の中で弁護士も、民事、刑事、家事の専門分野だけでは到底対応できなくなり、その事件の専門性を必要とされる様になった。税理士も同じく税制度の専門化、高度化により一人の税理士のみでは対応が難しくなってきた。他の士業も法人化の要請理由とそのニーズは同じであるが、行政書士こそが、業務の専門性が求められ、守備範囲の広さでは士業の中で群をぬく。
 行政書士制度は、「行政の専門家である行政官」と「『素人である国民』の代理人である専門家行政書士」とが対等に行政手続を進める事によって、行政手続の円滑と適正な運用を国民に対して保障している。すなわち、行政書士制度は、国家の国民に対する「申請権の保障」の制度であると考えられている。従って、国民に「申請権を保障」する為には、行政書士は、業務の専門性、継続性そして業務の透明性までも強く要求されるのであろし、それらを強く求められれば事務所の法人化は当然の帰結となる。その観点からも、行政書士は、事務所法人化の法改正を急がなければならない。
ADR=裁判外紛争処理制度への責務
 現在の裁判外紛争処理制度は、直接に紛争処理を目的とした「建設紛争審査会」「交通事故紛争処理センター」があり、弁護士会、弁理士会の共同で設立した「工業所有権仲裁センター」等がある。それを利用するためには、数ヶ月前から予約が必要で、急を要する解決には利用できない。その他に、消費者相談事業活動の一環として、紛争処理を取り扱う「国民生活センター」「消費者センター」等がある。弁護士会や司法書士会はボランティアで相談事業を取り扱っているが、当事者双方が合意しなければ法的効果が無い点で積極的な解決制度とは言えない。司法制度改革審議会において、ADRに隣接法律専門職(士業)をどの様に活用するかが課題を成っている。行政書士は、今回の法改正で「契約締結代理」「契約交渉代理」等の業務が法定業務とされた。それにより、行政書士は当然に法律家に名実共に成ったのであるから、ADRに積極的に活用されなければならない。その形態は、業務としてでもボランティアとしてでも良いと考える。国民の利用しやすい多様な解決手段としてのADRの実現に、行政書士は進んで協力する責務がある。
会計調査人制度への行政書士の役割
 法務省で現在「会計調査人」制度を検討中である。行政書士が会計業務を取り扱う事は広く知られていない。財務諸表は、主に貸借対照表と損益計算書とに別れるが、貸借対照表は、財政状態と言う事実を証する書面であり、損益計算書は、経営成績と言う事実を証する書面である。従って、財務諸表は、事実証明に関する書類であり、その作成は行政書士の主たる業務である。
 行政書士の会計業務は、公認会計士や税理士における会計業務とは本質を異にしている。公認会計士と税理士の両資格の会計業務の中には、財務諸表の作成は包含されている。行政書士の会計業務は、財務諸表を作成する為の手段としての会計業務であり、財務諸表に重点が置かれている事に特徴を見ることができる。それは、事実証明を内在していると考える事ができる。会計調査人制度のこれからの実務上の問題として、公認会計士や税理士が作成した財務諸表を自らが会計調査する事には疑問が残る。行政書士こそが、第三者として事実証明の専門家として会計調査を担当すべきと考えるが如何であろう。会計調査とは、会計事実又は真実を証明する事に他ならないのではないだろうか。
 許認可申請は、財務諸表の添付を求められる事が多い。財務諸表の分析が出来なくては行政書士は務まらない。それだけ、行政書士業務は財務諸表と切っても切れない関係にある。行政書士が、会計の専門家として社会的に認知されない事は、行政書士自身の自覚と啓蒙が不足しているからだと思うのである。毎日の様に、法に基づく財務諸表の組み替えをしているのが現実の行政書士の姿である。自身を持って会計の専門家を自負しなければならない。行政書士が中心に成って設立した会計学会が全国に2つある。それらの学会は、東京と福岡にそれぞれ事務所を置く。
ワン・ストップ・サービス実現への行政書士の社会的責務
 「ワン・ストップ・サービス」の語源は流通業界の「ワン・ストップ・ショッピング」にある。百貨店、スーパー等の量販店は、早くから「ワン・ストップ・ショッピング」を指向し、消費者のニーズに対応すべく品そろえを充実され続々と出店させた。そこには、消費者の利便性を常に考えてきた流通業界の姿勢が見られた。しかし、これまで士業界は、業界を厳しく解釈し、職域の確保を優先させ、国民の利便性は二の次であった。
 ここに来て、司法制度改革審議会の中で、「ワン・ストップ・サービス」が呼ばれ、「経済法律総合事務所」制度が提案されている。しかし、当該事務所を数多く作らなければ意味がない。事務所内に資格士業者を一同に会する制度を創設しても「ワン・ストップ・サービス」は現実のものとはならない。独立を志向した資格士業者の多くが総合事務所に参加するとは考えにくく「ワン・ストップ・サービス」は、まれな事務所となってしまう可能性があるからである。
 そこで、「ワン・ストップ・サービス」を現実のものとする為には、現行制度をできるだけ堅持しつつ、前掲の@事務所の法人化はもとより、A他の士業事務所での当該資格士業者の事務処理を認める事とB士業者間におけるネットワークを組み、紹介精度を確立する事が必要であろう。
 行政書士は、弁護士以外の資格士業のルーツでもあるのであるから、「ワン・ストップ・サービス」の窓口としての役割に適任であり、責務でもあろう。他に資格士業制度は、主に税務署、登記所、特許庁等に限定される事が行政書士制度との大きな相違点である。行政書士は他の士業者の取り扱わない全ての行政庁を対象とした行政手続についての業務をなす事が出来る事が、「ワン・ストップ・サービス」の窓口担当士業者に適任の所以である。資格士業者同士で、業務の問題を考えている時ではない。専門は専門として認め合い、各士業者がネットロークを組み、いかに国民のニーズに対応して行けるかに、それぞれの制度の存亡が掛かっている。